“日本敗れたり”にたいする講評
古枯の木は2003年に“日本敗れたり”という小著を刊行しましたが、さいきんそれにたいする講評を東京のある出版社からもらいましたので批評も加えそのままお知らせします。
“日本敗れたり”は著者自身の取材を含めた太平洋戦争の検証と、そこから展開される日本人論である。開戦までの経緯は謎に包まれた部分も多いが、本作品では、一部でいわれていた米大統領とごく少数の側近の策略によるという説が、説得力ある考察により組み立てられている。日本側にあっては、太平洋戦争の開始にあたって、海軍は陸軍に比べて理性的だったということを、多くの日本人がそのまま信じている。その中で、本書が海軍の体質、戦争にたいする責任を強調している点は重要だろう。であれば、軍全体が自信過剰であって戦略に欠けていたとはいえ、ひいては日本の国民全体が根拠のない自身過剰に陥っていたといえる。それは戦後の日本、現在の日本をみても、同じことがいえるのではないだろうか。このことを示唆している点に本書の大きな意義がある。
同盟関係にあったドイツの現実など、国と国との関係はむずかしい。だから情報戦が繰り広げられるのだろうが、この点でも今の日本はアメリカ頼りである。一方でアメリカも、まだ戦争を利用した国家の経済運営を続けている。戦争や対外交渉などにおいて戦略がいかに重要かを再認識させられる。企業活動にこれらを応用することが流行したが、肝心の国家レベルでは今の日本ははたしてどうなのか。本作品は太平洋戦争を中心に述べられているが、後半では、そこから展開した日本人論となっており、それぞれ具体的でなるほどと思わせるとともに、日本人として“危機”を感じる。米国滞在中に、多くの人に意見や体験を聞き、対日感情についても直接その肌で感じ、その真偽を直接会って確かめるなど、著者の意欲はすばらしい。日本人は本作品を読み、さらに明治維新から第二次世界大戦まで、そして戦後史を振り返ってみるべきだろう。
戦争のことに限らず、“日本人" について考えさせられる意義ある作品である。
批判―独伊との同盟関係、大陸経営について、近衛、松岡、東条その他の政治家を批判するとところ(14ページ、33ページ)は、文体が過激に過ぎると思われる。戦後政策との関連から天皇制について触れられているが、日本人にとってデリケートな問題である。文章表現には充分留意せられたい。
古枯の木
すばらしい講評ですね。こうやって作品に対して具体的な評価をもらえるというのは、モチベーションがあがると思います。意欲的に真実を知ろうとする姿勢や、実際にアメリカに住みながら肌で感じたことを文章にしていることへの評価が高かったのを嬉しく感じました。
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