2010年10月3日日曜日

K博士からの手紙

K博士からの手紙

 古枯の木が最も敬愛する人の一人にK博士がいる。食物のうまみの成分であるイノシン酸を発見した理学博士で現在83歳、千葉県のある大学の教授をしておられる。近年、古枯の木は一橋大学の同素会会報である如水会報にエッセイを寄稿してきたが、そのうちの3篇を博士に送った。すると博士からすぐに次のような返事が帰ってきた。
 第一のエッセイである“アメリカの日系人”について博士は1865年に始まったアメリカ移民に対するアメリカ人の人種差別と寛容の心の錯綜、特に真珠湾攻撃以後の複雑な庶民のエピソード、そしてコロラド州カー知事、ケネディー大統領、カリフォルニア州ディル議員の多分宗教に裏打ちされた毅然たる態度に深い感銘を受けたと。
 第二のエッセイは“ゴールドラッシュとジョン万次郎”。ゴールドフィーバーに浮かれて集まって来たいろいろの民族の人達の働きぶりに各民族の特性がかくも鮮やかに現れていたとは驚愕した。それにしてもロシア人はゼロ、日本人は万次郎ただ一人というのは面白い、万次郎が只者でないことに改めて感服した。
 最後のエッセイは“山本五十六とロサンゼルス”。古枯の木が元帥の作戦に関し“ソロモン群島での消耗戦の繰り返しは余りにも凡庸”と述べるのは余りにも手厳しい。でも考えてみるとあの消耗戦が敗戦の端緒になったのは誰しも認めざるをえないので、元帥は作戦についてはある程度凡庸であったかもしれない。
 この講演会をきっかけに猪瀬よし子と巡り会えたのは素晴らしい奇遇である。よし子さんの伯母さんも、そして山本元帥も、天国でさぞ喜んでおられることだろう。時と処を超えた人と人のつながりの不思議さ、尊さに深く感動した。
 以上が小生のエッセイに寄せられた博士のコメントである。博士はさらに続けて語る。時代が移っても、アラブとイスラエルの争い、さらに最近では日本と中国のギクシャクした関係などに心を痛めている。すべての人々が、いま、ここに共に生きる喜びを称え合う真に平和な世界をしかと見届けてから旅立ちたいと思っているが、間に合わないだろうか。
 博士は大学教授の傍ら自宅に私塾を持っておられる。これは小6から高3までの子供たちに数学の楽しみを教えるためのものだ。大学教授を退官してもこの私塾は続けるという。また78歳の奥さんは英語塾を持っており、奥さんもしばらくこの塾を続けられるそうだ。
 博士は健康で長生きするために自身で五箇条のご誓文を作られた。それは次の通りである。
1. よく食べる
2. よく眠る
3. 排泄に異常なきよう気をつける
4. 全身どこにも疼痛なきよう心がける
5. 日々適量の酒に生きる喜びを味わう
 
 この五箇条のご誓文が維持されるならば年齢なみに健康だと満足することにしているそうだ。なお博士の好奇心はいまも旺盛で昨年はスペインとポルトガルに旅行された。今後とも博士が奥さんと共にますますお元気に、価値ある日々をお送りなさるよう心から祈っている。

古枯の木―2010年10月2日
                                                            
 

0 件のコメント:

コメントを投稿