2010年9月23日木曜日

暗く陰湿な部屋

暗く陰湿な部屋

 小学校のとき先生に連れられて市役所の見学に行った。すべての部課の部屋は開放的でガラスの窓越しに職員たちがきびきびと働いている様子がよく理解できた。でが一つだけ部屋のカーテンは下ろされ、見るからに陰湿でじめじめしている部屋があり、そこには“兵事課”の看板が掛っていた。先生は兵事課とは日本兵となる人を徴集するための仕事をしている課であると教えてくれた。
 そのころ日本兵は神兵または皇軍の兵士(天皇の兵隊の意味)と呼ばれ、表面的には尊敬されていた。非常に重要な仕事をする課であり、さらにいろいろな機密事項もあるからカーテンが降ろされ、暗くなっているだろうと想像した。さらに神兵を徴募するところだから一種神聖な場所であるとも思った。
 ところがこの見学から帰って新事実を発見するのに時間はかからなかった。兵事課をめぐる大人たちの会話は次のようなものだった。自分の息子を兵役の義務から免除してもらため、いつも兵事課には現ナマが乱舞している、息子を兵器産業における重要なエンジニアーであるとの虚偽の申告書を兵事課で書いてもらえば兵役は免除されなどである。
 二宮金次郎の末裔に二宮尊堂という人がいた。この人は有名人の末裔であるとして兵役を免除されたと直接本人から聞いたことがある。
 徴兵制が復活し、兵事課が再生し、自分の息子が徴兵の適齢期になったとき、一体古枯の木はどんな態度をとるであろうか。

古枯の木―2010年9月22日

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