アメリカ・ドッキリ物語 (6)
古枯の木
バンザイ、バンザイ
筆者の家の近くに“こぐま幼稚園”と呼ばれる小さな幼稚園がある。この幼稚園は日本人や日系人の子弟だけではなく白人や黒人の子供も受け入れている。今年のイースターの休み中にこの幼稚園の運動会があり、孫の一人かここに通園しているのでそれを見に行った。
園児が赤白に分かれてする競技が多かったが勝ち組が勝つたびに大声で“バンザイ、バンザイ”と連呼しでいた。先生や見学に来た父親、母親もそれに和していた。みんなそれを当然のことのように行っていた。ところが筆者の横に座っていた80歳ぐらいの白人の男がこの光景を見て筆者につぶやくようにしかも皮肉を込めて“日本人はまだ戦争をしているのか”と言った。バンザイと戦争―最初はこのこのことにまごつきさらにドッキリと肝を冷やしたが白人の男と話すうちにそのなぞが解けた。
バンザイは太平洋戦争中のバンザイ突撃と関係がある。バンザイ突撃は身を殺して国を救う崇高な犠牲的精神の発露でありまた生還を期せざる者の悲壮な肉弾戦であった。バンザイ突撃が有名になったのは1944年7月7日未明サイパン島北部のマッピ山に追い詰められた5千の日本兵が行った玉砕作戦である、これは今日でも多数のアメリカ人が知っている。アメリカでは帝国陸軍を“戦争の下手な残虐な素人集団”(cruel amateurs)と侮蔑していたが、帝国陸軍が実施した戦術の中で一番愚劣でしかも乱暴な蛮行がバンザイ突撃であると信じている。筆者は隣の白人の老人にバンザイは戦争とは関係なく、単に喜びの歓声であると説明したが、彼がどれほど理解できたかは分からぬ。手元にあるThe American Heritage Dictionaryを開くと“バンザイとは日本軍による戦争中の雄叫び”としか書いてない。どうもバンザイという言葉はアメリカ人には不快感を与えるようだ。
古枯の木―在米35年以上、歴史愛好家。著書に”日本敗れたり“など。
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